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COLUMN

リューブゼリー35周年対談

《女性・カップルの QOL 向上を目指して 》性交時用の潤滑ゼリー

リューブゼリー35周年対談

性交時の潤い不足で悩む女性のために、日本家族計画協会医学委員会が潤滑ゼリー(リューブゼリー)を開発してから、今年で35年。発売元である日本家族計画協会・北村理事長と、製造元であるジェクス株式会社・梶川社長の特別対談が行われ、リューブゼリーの歴史と未来が語られました。

北村氏

リューブゼリーが発売されたのが1982年10月ですから、今年で35周年ということになります。この35年の歴史と、リューブゼリーの近未来について、ざっくばらんに語り合うことができればと願っております。

梶川氏

私の父がジェクスの創業者の一人でありましたから、リューブゼリーというものは、学生時代から知っておりました。この対談に当たって父からも、開発当時の苦労話などを聞いたのですが、医学的な話もありますので、まずは先生から開発の経緯などをお話しいただけますか。

北村氏

当時医学委員会というものがありまして、前会長を委員長として、10名で構成されていました。その会合が1972年の2月に開かれたときに、性交時の腟の痛み(性交痛)を防ぐための潤滑ゼリーの開発の必要性が議論されたと聞いています。「聞いています」というのは、私が本会に加わったのが1988年ですから、その席にいたわけではないからです。

梶川氏

当時は、リューブゼリーのような潤滑ゼリーが市場になかったのですよね。

北村氏

欧米では性交痛を防ぐ目的を持ったゼリーが薬局やスーパーマーケットなどでも売られていたわけですが、わが国にはありませんでした。当時、産婦人科医が個人輸入で海外製の潤滑ゼリーを手に入れて悩める患者に勧めていたことはあったようです。

梶川氏

欧米諸国と違って、日本では潤滑ゼリーのような性に関する商品はタブー視されていたので、開発しなかったという状況があったのでしょうね。

北村氏

その通りだと思います。必要性を感じていた本会に理解を示してくださったのが御社でした。欧米で使用されていた代表的なゼリーを入手・分析して、わが国独自の製品を開発していただいたわけです。
さて、本会の医学委員会が潤滑ゼリーの必要性を感じたわけなのですが、なぜジェクスに話を持っていたのか。このあたりの経緯を、梶川さんからお聞かせください。

梶川氏

ジェクスでは創業時から性交がスムーズに行えるように、「ゼリヤコート」という水溶性の潤滑剤をあらかじめ塗布したコンドームを販売しておりました。当時はまだ、当社と日本家族計画協会さんのご縁はあまりなかったと聞いているのですが、そのあたりで当社にお声掛けいただいたのかと思います。

社員と家族が開発した

北村氏

ところで、こういうものを開発するというのは、容易なことではありませんよね。安全性、有効性を検証することは当たり前ですが、経営的なことも考えなければなりません。

梶川氏

もともとコンドームがメインの会社でしたので、新しいカテゴリーの商品を開発するという場合は、お使いになる方の安全性はもちろん、さまざまな検証を行います。
また、開発においては、実際に使ってその目的を満たすかということは、大変難しいところです。リューブゼリーの製品化に当たっては、モニター調査で大変苦労したと聞いております。セックスのときに使ってください、というものですから。リューブゼリーは社員とその家族が一緒になって開発されたものなのです。

北村氏

そうやって登場したのがリューブゼリーなのですね。この名称についてですが、Lubricant(潤滑)のLUとLoveのVEで、Luve Jelly。発売当初、各社全国紙に取り上げられ、大反響だったようですね。

梶川氏

先ほども申しましたように、性に関するものはタブー視されていましたので、こうした商品を世に出したというのは、かなりセンセーショナルだったのでしょう。
最初はそんなに売れるものではないと考えていたようなのですが、初回につくったものはすぐに売り切れ。全国の薬局から「早く商品を送ってくれ」という声が殺到したと聞いています。

北村氏

日本人のカップルが待ち望んでいたものだったということですね。「中高年の性の問題解決に画期的」なんて書かれた手紙が本会に届いたこともあったと聞いています。

中高年女性だけの問題ではなかった性交痛

北村氏

性交痛というものを、果たしてどのくらいの人たちが感じているのか。2012年、13年、そして17年版と、御社のジャパン・セックスサーベイに協力をさせていただいていることを、この場を借りてあらためてお礼申し上げます。インターネット調査ということもあって、日本人の性にかなり深く入り込んでいることから、メディアにもとても関心を持っていただいております。
この最新の17年版によりますと、セックスのときに痛みを感じている女性は67・0%もいます。30歳代が最多で76・5%、次いで20歳代が73・7%、50歳代63・4%、60歳代62・4%、40歳代62・3%となっています。

梶川氏

以前、NHKの朝イチという番組で、「リューブゼリーは中高年のための“仲良しゼリー”」などといって取り上げられたことがあります。そのときはわれわれも中高年、特に閉経後の女性の問題かと決めつけていたのですが、この調査で若い人たちも悩んでいるということが明らかになりました。この結果には、われわれも驚きました。性交痛は中高年女性だけの問題ではなかったのです。

北村氏

その通りです。20歳代女性での性交痛の理由は、潤いが起こるよりも前に、挿入を求める男性がいること。セックスの経験不足、妊娠・性感染症への不安などが考えられます。その結果を反映してか、性交痛を緩和させるために潤滑ゼリーを使う割合は、20歳代が一番高くなっています。

梶川氏

中高年女性を中心に考えておりましたので、これから売り場や広報の見直しが必要だと考えています。

北村氏

性交痛がある女性は性的満足度が低いという結果もあります。当然と言えば当然のことです。性交痛があるためにセックスに「満足していない」との回答は43・4%もいました。特に50歳代などは54・2%となっています。

性交痛のメカニズム

梶川氏

性交痛というのは、まだまだ分からないところがあるわけですが、医師の立場から性交痛の原因などについて、あらためてお聞きしたいのですが。

北村氏

まさに性科学の領域ですね。性的興奮が高まってきますと、血液が下半身、特に性器周辺に集中してきます。男性の場合には、それが勃起という現象として表れます。女性では、腟壁周辺の毛細血管に血液がドドドーと流れ込むのですが、それを受け止めきれずに毛細血管の壁が離解し、腟壁から水様成分がポタポタと垂れるのです。ちょうど、腟壁の汗のように。ですから、性的興奮が高まる前に挿入をしてしまうと、潤いが不十分なわけですから、性交痛を感じてしまうのです。
反応までの時間には個人差がありますし、女性側に望まない妊娠や性感染症に対する不安があれば、心理的に痛みを強く感じることになります。
さらに、動脈硬化や、外陰部の柔軟性と弾力性の低下もあります。また、閉経後の女性に多く見られるのですが、更年期から閉経期に起こる卵巣機能不全が原因となる場合もあります。エストロゲンは皮膚粘膜の弾力を保つコラーゲンの合成や、肌の保湿としなやかさを維持するヒアルロン酸の保持に深く関わっているための影響があるわけです。

梶川氏

そうしたものを補うためにリューブゼリーが有用だということですね。

安全性への配慮

北村氏

ところで、リューブゼリーというのは薬剤ではありませんよね。

梶川氏

医薬品医療機器等法に基づいて商品をつくっているわけですが、その中に潤滑剤という項目がないのですね。ですから、カテゴリーとしては医薬品等ではないのですけれども、安全に関わるものですので、医薬品に使用されるレベルの原料や製造管理の下に商品をつくっています。

北村氏

成分についてはいかがでしょうか。

梶川氏

やはり、女性の体にも男性の体にも害のないものでなくてはなりません。ご承知の通り無色無臭のさらっとしたゼリーで、女性から分泌される液に近い成分です。ですので、ベタつかず、汚れも残らないので、水やぬるま湯でさっと落とせば、すぐにきれいになります。
当然ながら、殺菌処理、皮膚アレルギーや腟粘膜への影響などの検査を、定期的に行っています。衛生的ですから、仮に口に入れても問題がなく、腟内や男性器に残っていたとしても安全なものです。コンドームは油性のオイルを使うとゴムを痛めてしまいますが、リューブゼリーは水溶性で、コンドームへの影響がないことを確認しています。

夫婦関係にも影響?

北村氏

御社のお客様相談室にはリューブゼリーを使用された方からの声が、さまざま寄せられているかと思います。そのあたりいかがでしょう。例えば、リューブゼリーで夫婦の関係性がよくなった、とか。

梶川氏

これまではリューブゼリーというものを知らず、セックスが苦痛で仕方がなかった、という女性のご意見は非常に多くあります。やはり性交時の痛みで女性側が挿入を拒否するケースがあるようでして、リューブゼリーを使ったことによってお子さんを授かることができた、というお礼のお手紙もいただきました。
セックスというのは、ご夫婦の関係にも非常に大きな影響を及ぼしますので、これで夫婦関係がよくなったという声は本当にたくさんいただいております。

北村氏

私も、出張で地方に出かけたときなど、リューブゼリーの配置場所を見ることが多いのですが、一般的には、ドラッグストアでの扱いはどうでしょうか。

梶川氏

ドラッグストアなどではコンドームのコーナーに置かれていることが多いのです。これでは女性が買いづらいということで、最近では生理用品のコーナーに置いていただいているところも増えています。あとは、インターネットで買われる方も非常に増えておりまして、しかもネットで購入されるのは圧倒的に女性です。

北村氏

なるほど。ドラッグストアで購入されるのは、男性ですか。

梶川氏

そうですね。パートナーから潤滑ゼリーというものがあるのだけど、と言われて男性が購入するケースが多いようです。このようなカップルは普段からコミュニケーションが取れる、とてもいいご関係かと思います。しかし、多くの女性はまだまだセックスのときの悩みについてパートナーに言えない。そういった方が、あらかじめ通信販売で買われるのかと思います。

産後や病後にも使いやすいものを

北村氏

リューブゼリーは今年で35年。さて、リューブゼリーのこれからについてどのようにお考えですか。現在もホットやデリケートインなどのさまざまな種類があるわけですが。

梶川氏

やはり、ジャパン・セックスサーベイで分かったように、性交痛は中高年女性に限った悩みではなく、若い方も同じように悩まれている。そういった若い方たちへの啓発をどうしていくか、という課題があるかと思います。
また、産後のセックスの再開などは、特に性交痛の不安があるところです。あるいは病気によって子宮や卵巣を摘出された方もおられます。こういった方たちの性の悩みを少しでも解決できるよう、病後の方たちにも使いやすいものをつくりたいと考えています。

北村氏

私のところに、つい最近寄せられた悩みは、子宮摘出後のセックスについてでした。故・渡辺淳一さんの小説「くれなゐ」には、子宮筋腫によって子宮摘出手術を受けた女性の心の葛藤や生き方が描かれています。子宮を失うことは女性性を喪失することであるかのような印象を読者に強く与えたようです。1970年代の作品ですが、この小説が話題になって以降、子宮摘出を躊躇する女性の声が、一時的ではありますが大きくなったように記憶しています。
手術を受けた女性だけでなく、手術を正確にはイメージできないパートナーにも誤解や偏見が渦巻いているものです。手術が性生活に悪影響を及ぼすものではないことを説明し、性交痛がある場合には、リューブゼリーを上手に使って性生活をエンジョイしていただきたいとアドバイスさせていただきました。
中高年女性のQOLを高めることから始まったリューブゼリーですが、若年層や産後の女性など、もっともっと対象を広げていく必要があるということですね。

梶川氏

その通りですね。リューブゼリーは35年間、当社と日本家族計画協会さんが一緒につくって、育ててきた商品です。これからも、日本の女性の悩みを少しでも解決できるような商品を提供していければと思っております。

北村氏

リューブゼリーは日本人女性、あるいはカップルのQOLを高めることができるものだと自信を持っています。これからの50年、100年に向けて今後も一緒に取り組んでいければと思います。本日はありがとうございました。